キャンピングカー ビルダー列伝 レクビィ ②

レクビィ社の代表取締役・増田浩一さんへのインタビューをお送りしてきたが、今回はその後編をお送りしよう。
レクビィの誕生からこれまでの歩みについてうかがってきたが、今後の展望についてはどうだろう。

大学生と一緒にキャンピングカーを作る?

渡部:近ごろは新しい取り組みもされているとうかがいました。大学生と一緒になにかやっておられるとか?
増田:京都精華大学というユニークな大学がありましてね。そちらと産学協同のプロジェクトに挑戦してるんです。
渡部:大学生とキャンピングカービルダーの産学共同ですか。
増田:京都精華大学は早くから漫画学部を創設するなど、デザインやソフトの世界で有能な人材を育成しようとしている大学でしてね。そこのデザイン系の学生さんから希望者を募って「新しい時代のキャンピングカーのデザインを考えてみよう」という試みなんです。私たち作り手は、デザインが重要であることはもちろん承知しているんだけども、どうしても機能性や製品化する上でのコスト(価格に反映する)に頭がいきがちです。その点、キャンピングカーが決して「身近」とはいえない次世代のデザイナーの卵たちが、このモチーフをどうとらえるか。それも、ただ紙の上やCGで机上の空論としてのデザインを完成させるだけでは意味がありません。あくまでもアートではなくて、実用品としてどこまで落とし込めるか。ですから、プロジェクトを通して提案されたアイデアは、最終的に弊社で「実車」を制作します。
渡部:おお! 実際に作るところまでやるわけですね。製造のプロが一緒に動くとなると、デザイン上はよくても、実作するとなるとさわりが出てくるところもあるでしょうから、学生さんにとっても勉強になるでしょうね。作るのは1台限定ですか?
増田:いやいや。それじゃあ面白くない(笑)。7台作ります。
渡部:7台!
増田:次回のジャパンキャンピングカーショー2024で展示して、販売します。会場のディスプレイやパンフレットまで含めて、学生さんに考えてもらいます。
渡部:それは大掛かりなプロジェクトですね。ずいぶんと思い切ったことを。
増田:産学協同プロジェクトって、あちこちで色々やってらっしゃるけれど、ちゃんと形にして、お客様に売るまでやるっていうのは、少ないと思うんですよ。企画立案から生産、販売。そこまでやることに意味があるんじゃないかと。学生さんも気合が入ると思いますし。
渡部:すごいなあ。内部のレイアウトもオリジナルですか?
増田:今回はちょっとそこまで時間が取れなくて、あくまでも内装・外装のデザインのみです。ホビクル・オーバーランダーの内外装を、京都精華大学オリジナルバージョンにする、という形をとります。それでも十分個性的で、オリジナリティのあるものが、出来上がると思いますよ。

新しい取り組みの、真のねらいは?

渡部:産学協同プロジェクトをしようと思われた、その動機はなんなのでしょうか。
増田:まず、キャンピングカーの認知を広げたい、と思ったところからですね。「珍しいもの」から「知っているもの」になってもらいたい。若い人、しかもまだ社会に出る前の学生さんに、キャンピングカーに興味をもってもらう機会を作りたかったんです。
ところが実際、学生さんと話をしてみると、思ったよりキャンピングカーを知っていて。こちらがびっくりしました。
「親が最近買ったんです」とか「親戚が持っていて、時々一緒に連れて行ってもらいました」なんて人もいて。ああ、こりゃ認識を改めにゃならんな、と。
もう一つの目的はリクルートです。別に我が社に入ってもらわなくても構わないんですよ。キャンピングカー業界が魅力のある就職先だ、ということをアピールしたいんです。もちろん、我が社に来てくれるなら最高ですけどね。
渡部:若い世代が夢を持って入って来てくれるような業界にならないと、将来につながらないですもんね。それはできあがりが楽しみですねえ!
増田:ええ。ショーでのお客様の反応も楽しみです。
渡部:ショーでの展示と言えば、今年のジャパンキャンピングカーショーでは、スケルトンのモデル(内部が見えるようにアクリルなどで見えるようにした展示モデル)を用意して、断熱処理とかクッションの構造が分かるようにしてらっしゃいました。
コストもかかったでしょうに。
増田:キャンピングカーの、特にバンコンの肝心な所って、実は裏側にあるんですよね。作ってる人間はもちろんわかってるんだけど、完成してしまうと、目に見えなくなっちゃうんですよ。だからキャンピングカーをよく知らない人がショーの会場に来ると、ただトラックや商用バンがずらっと並んでいるようにしか見えない(笑)。
見えない部分にどんなしかけがしてあって、そのおかげでどれだけ快適なのか。安全なのか。そこにこそ真価があるんです。
ところがごくシンプルな造りの車を提案すると「このぐらいならDIYでできるじゃないか」とおっしゃる(笑)
いやいやいや。見た目はちょっと頑張れば、器用な人なら作れるかもしれませんね。でも「我々はこんな部分までしっかりと作り込んでいます」「その差は使ってみると歴然ですよ」っていうことをアピールをしておこうかなと。
渡部:天井からドアの内張まで、内装をすべて剥がしての作業ですもんね。
増田:普通の車、いわゆる乗用車やバンは、基本的に断熱はされていません。だから真夏にエンジンを止めるとあっという間に灼熱地獄になる。人がずっとそこに滞在することなんて想定していないから当然です。でも、それでは快適な車中泊はできませんよね。我が社の製品は床、壁、天井、すべてに断熱処理をしています。基本的に剥がした内張とボディの間に断熱材を入れていく訳ですが、元の車はお話しした通り、そんなことを考えて作られていませんから、使える隙間も数センチだったり数ミリだったり。場所と条件に合わせて様々な断熱素材を組み合わせていくことになります。長く使っていただくためには、後々のメンテナンス性も考慮しないといけませんしね。
渡部:そういう断熱材とかクッション材とか、色々な素材サプライヤーさんからの材料の展示もされてましたね。
増田:前回お話ししたファブリックもそうですけれど、いろんな材料メーカーさんの協力で成り立ってるわけです。そこを見てもらうと同時に、「われわれはこんな製品(素材)を求めてますよ」っていう、新たなサプライヤーさんを募るという目的もあります。
渡部:すごく面白い展示でした。
増田:実際に「こんな素材がありますがどうですか?」という売り込みもあって、狙いは合っていたかなと思います。
渡部:でも、どんな素材をどう使っているかなんて、ある意味企業秘密を公開しているような部分もありますよね。
増田:別に我が社で独占しなくてもいいと思ってるんですよ。キャンピングカー業界がサプライヤーさんにとって魅力的な分野なんだ、っていうことが判ってもらえるといい。業界が発展する一助になればと考えています。

業界の発展と自社の今後について

渡部:自社と業界の両輪、ですか?
増田:そうです。幸いなことに、キャンピングカーの販売成績は伸びていますし、まだまだ伸びしろはあると思います。さらに伸ばしていくためには、より良い商品を出し続けていくことが肝心です。そのためには、人と物の両方が必要です。キャンピングカー業界が就職先、供給先として魅力的であること。消費者にばかり訴えるんじゃなくて、働く人や作る人、素材を提供してくれる人にとっても魅力的な業界でなくては。そうなれば、回り回って我が社にとってもメリットです。40年やってこれたのも、業界の皆さんにお力添えいただいたおかげですし、スタッフがいてくれるからこそ。見えない部分を広く公開するのも、そうした縁の下で支えてくれる人たちへの恩返しの意味もあります。
渡部:今後は、どんな車を作っていきたいですか
増田:新しい、斬新なアイデアを学生に求める一方で、私たちが目指しているのは「普通に使える車」を作ること、です。これがね、意外と難しいんですよ。ベッド展開一つとってみても、キャンピングカーが好き、キャンプが好きという方々ならば「まずここを畳んでから、下のボードを引っ張って…」なんて、手順も判っていただけますが、目指したいのはそこではないんです。なんの予備知識も持たない、日頃は普通の乗用車に乗ってる方が、ぱっと見て、手軽に簡単に使い方がイメージできるような車でないと。一部の好事家のためのもの、通好み、ではこの先生き残っていけませんから。
渡部:今でもすでに、色々なベッド展開ありますよね。
増田:「なんだか面倒」とか「難しくそうだな」とは思われたくない。その上で、「力が要らない」「ケガしない(あぶなくない)」。それでいて「丈夫である」……。考えなきゃいけないことは山ほどあります。他にもバッテリーのこととかね。水回りなんかも。性能のよいものを選んで、どこにどう納めたら便利に使ってもらえるのか。できるだけシンプルに、判りやすく、を心掛けています。
渡部:ユーザーにとってはこんなにありがたい話はありませんが、価格はどうでしょう。
増田:気になりますよね(笑)。ベース車の値段含め、いろんなものが値上がりしてるのはみなさんご存知の通りでしょう。我が社の努力だけで「ドーンと値下げ!」という訳にはいきません。ですが、頑張ってます!とだけお伝えしておきます。「キャンピングカーはお金持ちの道楽」なんていうイメージもまだあるので、引き続き、そこを変えていきたいですね。
渡部:最後にレクビィの今後の展望をまとめると、どうなります?
増田:キャンピングカーが特別な物でなくなる日を目指したい。どんなユーザーにとっても、慣れた人にも初めての人にも。若い人にも高齢の人にも優しい車作りを。働く社員のことを考えても、無理なくごく普通に働いて製品が作れる会社であり続けること。今はやりの「持続可能な」ってことでしょうか(笑)
渡部:ありがとうございます。お題目ではない「持続可能」が大事ですよね。

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いかがだっただろうか。
非常にわかりやすく、真摯にお伝えいただけたと心から感謝している。
誰もが安心して、快適な旅を手軽に実現できるように。
私もこれからも、キャンピングカー業界を見つめ続ていきたいと、背筋が伸びる思いである。

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