当ブログ始まって以来初となる、ビルダーへのインタビューを載せてみようと思う。
私は『ユーザー代表』の立ち位置を勝手に自負しているのだが、キャンピングカーの『作り手』や『売る側』に聞いてみたいことはたくさんある。
また、元来モノづくりの現場やそのヒストリーには目がない。
そんな、どこまでも個人的な興味関心を振りかざして、お忙しいビルダーに話を伺おうというのだから、いけ図々しいことこの上ない、はた迷惑な企画なのだが、人気国産ビルダーのひとつ、レクビィ株式会社の代表取締役・増田浩一さんが快く協力くださることになった。
以下、対談形式でお届けする。
その前に、レクビィ社について簡単にご紹介しておこう。
株式会社レクビィ
本社:愛知県瀬戸市(神奈川県大和市に展示場、広島県福山市に工場あり)
創業:1984年(前身・ロータス名古屋として発足)
代表商品:ファイブスター・セプト、ホビクル・オーバーランダー、ソランなど
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黎明期は「脱サラ」から始まった
渡部:増田さんは、最初は公務員だったとうかがいましたが?
増田:そうなんですよ。建設省(現国土交通省)の水利関係の仕事をしてまして。今と全然関係ないでしょ?(笑)
兄(増田英樹さん)がある日「浩ちゃん、キャンピングカーの仕事をしようよ!」って、いきなり脱サラしたんです。こっちは急には辞められないから、先に兄が起業して、私は少し遅れて参加したんです。当時はレクビィって言う名前ではなくて「バンショップ ロータス名古屋」っていう名前で。
渡部:ロータス、ってあの…?
増田:そうそう!日本のキャンピングカーのパイオニア、ロータスの相原栄蔵さんのグループのひとつとして始まったんです。
渡部:それが40年前なんですね。最初はどんな車を作ってたんですか?
増田:いきなり新車を扱うことはできなくて、お客様が持ち込んでくる車に架装を施すスタイルでした。ハイエースとかキャラバンとか、毎回いろんな「お題」が降ってくる。
アメリカのバニングの流れを受けてましたからね。当時はチンチラ生地なんかも使って、結構派手といいますか、鮮やかな仕上がりになってまして…(笑)
渡部:鮮やか(笑)
増田:お客様の要望を聞いて作っていく。いわゆるワンオフですよね。
渡部:そこからカタログモデルを作るようになっていくわけですね。
増田:いろいろ手掛けていくうちに、自分たちなりのアイデアも生まれていくわけです。それを世に問うてみたい気持ちが持ち上がってくる。頼まれて加工する”架装屋さん”じゃなくて、自分たちのキャンピングカーを1から作るビルダー、メーカーになりたかった。そうやって出来上がったのが、今もモデル名を引き継いでいる『ファイブスター』だったんです。
渡部:そのころからハイエースベースで?
増田:100系ハイエースのスーパーロングをベースにした、4名就寝仕様でした。サブバッテリー(鉛)、3Way冷蔵庫、ビデオ付きテレビ……必要と思われる装備はすべて標準にして、それで価格は299万円。「バンコン低価格競争の先兵」なんて言われたものです。
渡部:そこからバンコン一筋に?
増田:いえいえ。キャブコンもつくらせてもらいましたし、外車や軽自動車もやりましたよ。最近ではキャンピングトレーラーを作ってみたい、という会社とコラボレーションもしました。大きいものにも小さいものにも、それぞれに良さがありますから。
自分自身、バスコン、アメリカンのクラスC、ヨーロッパのバンコンやトレーラー……いろいろ乗ってきました。もちろん自社車両も使います。いろんなキャンピングカーに乗ってみて、遊んでみて、日本の道路事情に合っているか、一般的な日本人家族の遊び方にフィットするか、いろいろ考えてみたんです。その結果、国産バンコンがサイズ的にも使い勝手の面でもジャストなんじゃないかと。だから今はバンコンに集中してますね。
渡部:なるほど。そうやって使い勝手をみずから確認すればこそ、必要な装備もわかる、ということですね。標準装備が充実しているのも、そうした経験からなんですね。
ユーザーだからわかる「必要なもの」
増田:自分自身がユーザーですから、欲しいものや必要なものはわかります。いくら車両の価格が安く設定されていても、あれもない、これもつけなきゃ…とやっていったら、結局乗り出し価格は高いものにつく。それじゃガッカリでしょう?
例えば「カーテンはオプションですよ」って言われたら、お客さんからしたら「どうして?」ってなるでしょ。まあ今どき乗用車にカーテンつける人はいませんけど、キャンピングカーは生活空間ですからね。家を買って住み始めたら、やっぱりカーテンはいりますよね。
「必要なものは最初から揃えてお渡しする」
これが私たちの、ビルダーとしての矜持だと思っています。まあ、いろいろラインナップが増えて来て、「あえてカーテンなし」のモデルも出すようにはなりましたが
渡部:とはいえ、シートの生地までオリジナルで作る会社もそうそうないと思いますが…
増田:あはは。確かにそうですね。レクビィでは内装に使う生地(椅子やベッドマットなど)は基本的にオリジナルです。
日本製の一般的な布地って、基本的には家の中での使用を想定してるんですよ。ところが車の中で使うとなると、紫外線はがんがん当たるし、真夏は室温が60℃以上になることもある(人が不在の間)。とにかく厳しい条件で使うことになるわけです。
キャンピングカーの場合、遊び方によっては汚れた服で乗り込むこともあるだろうし、座るだけじゃなくて、そこに寝ることも考えなきゃいけない。食事だってするでしょう。
そうなると、普通の生地じゃあ耐久性に問題があるし、清潔に保ちにくい。
なので「耐候性」「防汚性」「防水・止水性」を高めた生地をお願いして作ってもらってるんです。
社長の思い付きに振り回される現場?
渡部:ファブリック以外にも、国産にこだわってらっしゃいますよね。
増田:日本製のキャンピングカーですからね。それに合ったものを取り入れたいし、差別化する上でも重要だと思っています。シャングリラっていうモデルで使った栃木レザー(牛革)は、縫製がものすごく大変らしい。現場は嫌がります(笑)。
最近使い始めたカイハラデニム(広島県福山市)は、ジーンズの有名ブランドも採用している素材です。やっぱり縫製は大変らしいけど、弊社のスタッフはむしろ意地になって(笑)きっちりと仕上げてくれる。なんだかんだ言いながら、製造の現場が引き受けてくれるから、安心していろんなことにチャレンジできるんです。
一部のモデルで使っているのは織部焼のシンクです。これは我が社の本社がある瀬戸で作られてるわけですが、ご存知の通り、瀬戸は陶磁器の一大産地ですよね。焼き物のことを「瀬戸物」っていうぐらいですから。その瀬戸で作られている車両なんだ、っていうところに意味を持たせたくて採用したんです。物作りの街のシンボルでもあり、誇りでもありますね。瀬戸を瀬戸内海だと思ってる人にも、愛知県瀬戸市を知ってほしいですし(笑)
渡部:アイデアを形にするっていうのは本当に大変なことですよね。熟練のスタッフさんがいるからこそ、なんですね。
増田:ありがたいことに、いいスタッフが揃ってくれてると思いますよ。キャンピングカーっていうのは、車の整備士と、家具職人と、縫製職人がいなくちゃできないんです。複合的な商品ですからね。幸い、それぞれの分野のスペシャリストが揃ってくれているので助かります。
職人、っていうと、なんだか気難しい人の集まりだったり「見て覚えろ!」って言われる厳しい世界みたいに思われるかもしれませんが、それじゃ今の時代にそぐわない。若い人もついてきませんよね。我が社ではとにかく、疑問点や改善点がみつかったら、できるだけ早く解決策を考えるようにしています。
例えば担当外の人間だからこそ気づけることもあります。縫製担当が家具の仕上がりに「あれ?」と思ったら、すぐに言うこと。それを「素人に何がわかる!」って除外したら、いいものにはなりません。誰もがユーザーになりうるんだし、お客さんの中にも「その道のプロ」がいる可能性だってある。だから、できるだけ風通しよく、誰もが意見できる雰囲気にしておきたい。言われたほうも、素直に耳を傾ける。そうなれるよう、心がけているつもりです。
==========================================「神は細部に宿る」というが、他社にはない、ユニークな商品が次々生み出される理由が、垣間見えた気がする。話し出すと止まらない、聴き始めると止まらないこのインタビュー。
次回は「レクビィのこれから」についてお送りする。
【取材協力:株式会社レクビィ】