大学生がキャンピングカーをプロデュース

先日開催された、ジャパンキャンピングカーショー2024で
一台のバンコンがデビューした。その名を「アコロ」という。

若い世代とキャンピングカー

 ベース車両はトヨタ・ハイエースのロング×ワイド×ミドルルーフ。純正色のベージュのボディの、その下側はカラフルなモザイク模様に飾られている。内装ファブリックも同様のモザイク模様だ。
 このアコロ、デザインを手がけたのは美術を学ぶ大学生たちだ。京都精華大学とレクビィ、そしてキャンピングカーランドによる、産学協同プロジェクトから生まれた車なのだ。
 産学協同プロジェクトというと、デザイン画やスケールモデルを作って(発表して)終了、というものが多いが、このプロジェクトでは実際に車両を製作し、それを複数台販売するところをゴールとした。中々に意欲的かつ挑戦的なプロジェクトだと言えるだろう。幕張メッセでお披露目されたこの日が、プロジェクトのゴールであり、新たなスタート地点だった、という訳だ。

 プロジェクトのスタートは2023年6月。私は一報を受けて、その出発地点に立ち会うことを許された。
京都のキャンバスを訪れてみると、そこにいたのはキャンピングカーはほぼ未体験の学生たちだった。学年も学部も問わず、すべての在校生を対象に希望者を募り、組織された。

 メンバーの中には「親が持っていたので、子どものころに遊びに連れて行ってもらったことがある」という『経験者』もいるにはいた。が、そのほかのメンバーにキャンピングカーについての印象を聞くと
「自分には縁遠い・なじみのない車」
「使うところもイメージできない」
…まあ、致し方ないだろう。全員20代の若者で、つい数年前まで高校生で、自分のお金で車を買ったこともないのだ。中にはキャンプやアウトドアが好きな人もいたかもしれないが、キャンピングカーとなるとまた話は違う。それをこれからデザインしようというのだから、なおさら道のりは遠い。

 とはいえ、少ないながらも経験者がいるということは、それだけキャンピングカーが根付いてきた証拠でもある。プロジェクトが成立するだけの希望者もいた。若い世代が次世代のキャンピングカーについて考える時代がやってきたのだ。そう考えるだけで感慨深いではないか。

限られた時間の中で何ができるか

 さて、プロジェクトについて具体的に解説しよう。
素材となる車(ベース車両)はレクビィ社のホビクル・オーバーランダーと決まった。
期間は企画立案から実車完成まで、わずか6か月。
当然、ゼロから夢を形にする時間はないので、既存モデルに彼らの考えを盛り込んでデザインを練り込むことになった。
居室内のレイアウトも基本はそのまま、内装のファブリックの色・デザインで差別化してくことになった。

 結果、どうなったか。
元になったオーバーランダーの室内は、オリーブグリーンのファブリックやブラックの家具が使われたミリタリー調。かなり無骨な印象である。それがファブリックは手触りの優しいモケット生地に、デザインはカラフルなモザイク柄に変更され、家具類も白を基調に変更された。同じレイアウトの車とは思えないほどの変貌ぶりである。
狙い通り全く異なる仕上がりになっている。


 このファブリックを作り上げたのは、電車のシート生地などを多く手掛ける住江織物。インクジェットで染めらた布は、デザイン画と寸分たがわぬ見事な仕上がり。ただ、直線主体のデザインをシートに綺麗に縫製していくというのは、少しでも曲がったり歪みが出たりすれば目立ってしまうため想像以上に大変な作業で、住江織物の担当者も、実際にシートにきちんとなるのか心配したほどだという。しかし、その仕上がりは見事なもので、フルフラットに展開すると綺麗につながって完成する。ただ、レクビィの縫製担当氏は「二度とやりたくない」と言ったとか言わないとか。
 レクビィ主任デザイナーの箕浦英二氏は「自分の感覚を大切にしてデザインしてきたし、それはそれで正解だと思うが、学生が色を理論的に選んでいくのを見て参考になった」と話す。

 「若い人がキャンピングカーにもっと関心を持って欲しい、そのきっかけになればいいし、業界へのリクルートに繋がれば最高だ」と話すのは同社の増田浩一社長。今回は、時間も短く既存の車のデザイン変更だけにとどまったが、今後はじっくり時間をかけて、レイアウトから作り上げていくようなプロジェクトにもチャレンジしていきたいとも話す。

 デビュー戦では、目は引くものの「大人気で即完売!」とはいかなかった。個性的で万人受けするデザインではないが、アコロが持つテイストが好きな人も必ずいるはず。ユニークなキャンピングカーを探している方、どうですか?

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